「…良かった」


中庭の桜の木の下であずさの後ろ姿を見つけた。

あずさは足音で分かったのか振り向くとそう言ってふっと柔らかく笑った。



『久しぶり、だな』


この間、瑞季に見せられた写真の笑顔が今、目の前にあって。

なぜか俺は、とんでもなく動揺していた。



「うん、久しぶりだね。

来てくれると思わなかった」


…ウソ、だな。

だってあずさは分かってるんだ。


俺が何よりも誰よりもあずさに弱いこと。



『で、用件は?』


できれば今すぐにでもここを離れたかった。

自分の意思でここに来たのに俺はそう考えずにはいられなくて。

俺はあずさを真っ直ぐに見つめることができなかった。


「ねえ、晴弥」


あずさが1歩足を踏み出した。

そのせいで俺たちの距離はグッと近づいた。



「…やり直せないのかな、私たち」


そうあずさに言われた時。

俺はあずさの細い腕で抱きしめられていた――……