偽装婚約~秘密の関係~





『……沙羅』


汗が頬をつたっていく。

それを拭うことすら、したくなかった。


沙羅を一瞬でも見失うことが怖かったから。




『沙羅…俺…「何?あたし、忘れ物でもした?」


言葉を遮り、沙羅は言う。

必死で作った笑顔を貼り付けて。




『忘れ物…?

ああ、したよ』


大事で

大切で

失いたくないものを忘れたんだ。



「わざわざ届けてくれたの?

ありがとう、晴弥」


また沙羅は偽りの笑顔を浮かべる。

なんでコイツは

こんなふうに、無理をするのだろう。


泣き顔だって十分、可愛いというのに。