『まあいい。

でも2度と黙っていなくなるな。


お前は今日の主役なんだぞ?

分かったか?』


「…………うん」


渋々、という感じで沙羅は頷く。

だから仕方なく、掴んだ手首を離した。



「……さらー!」

その声が聞こえた瞬間、胸がざわついた。



「………あずさ…」

振り向いた沙羅の口から洩れた名前。


やっぱりあずさだったか…


「キレイだね、沙羅。

やっぱり瑞季さんのメイクは天下一品ね」


そう言って微笑むあずさ。


思わず溜め息が出そうになったがそれを呑み込む。



「あ、ごめんね。

そろそろ帰るから。


じゃあまた学校で」


ヒラヒラと手を振ってドアに向かっていくあずさ。

そのあずさの姿を見送る沙羅の表情は俺から確認することができなかった。


もし。

もしこのとき沙羅の顔が見えていたら。

そしたら俺は未然に防げていたかもしれない。


この後起こる、あの出来事を…