「お父さん、今日、ちょっと遅くなるね…
杏奈と…ちょっと出かけるから」
和室のお父さんに声をかけたら、
お父さんはものすごく驚いていた。
「どうした…その格好」
「杏奈が貸してくれた」
お父さんは杏奈を見てまた私を見た。
「服がほしいならいいなさい。
遠慮ばかりして…
杏奈ちゃんすみません。
香澄のためにありがとう。
情けないな…娘に我慢ばかりさせて。
気をつけて行ってきなさい」
「うん…」
あぁ…とお父さんは財布を持ってきた。
「お小遣足りているか?
持っていきなさい」
「大丈夫だよ。まだあるから」
「いいから。
服を借りてたら悪いから、買ってきなさい」
ありがとう…ごめんねお父さん…
本当は…デートなのに…
私はお金を受け取って
また杏奈とバスに乗って駅へ向かった。
「いいお父さんじゃん」
「そう…かな…」
「うちの父親なんてさ、酒乱だから。
それに、本当の父親じゃないんだ。
だから優しいお父さんっていいな…」
そうなんだ………
人にはそれぞれ
抱えている家の事情が
あるんだな……