ピアノの部屋のドアが少し開いていて、
明かりがもれていた。
ドアの隙間から中を覗くと、
お父さんがピアノに向かって座っていた。
何しているんだろう………
お父さんはピアノの蓋についている傷を
ひとつひとつ触っていた。
「お父さん?」
思わず声をかけてしまった。
お父さんはびっくりして振り向いた。
私は中に入って
もうひとつあるピアノの椅子をお父さんの隣に置いて、
一緒にピアノに向かって座った。
お父さんが真ん中、
私が高音部
「こうやっていつもお母さんは高音部に座って、
私に教えてくれていた」
お父さんはその言葉に、ただ無言で頷いた。
そして、少し考え込んで、
口を開いた。
「このピアノ、持っていきなさい」



