二人とも無言で電車に乗り、
そのまま何も話さずに、
家に入った。
キッチンの食卓に向き合って座り、
お父さんはため息をついた。
「ごめんな、香澄。
本当はお父さん、
こんな事が言える立場じゃないんだ。
でも、別れた方がいい。
かわいそうだが…」
お父さんは立ち上がって、
ヤカンに水を入れてお湯を沸かした。
「今まで黙っていたけど、
お母さんは病気で死んだんじゃない。
自殺したんだ」
………やっぱり
「なんとなく、わかってた」
お父さんはちょっとびっくりしていた。
「そうか…
やっぱりわかっていたか。
知っているだろうけど、
お母さんはお嬢様育ちだ。
老舗和菓子店の一人娘で、ピアノが上手で、
お父さん一目惚れだった。
お父さんはこのボロ家に住んでるぐらいだ。
貧乏だよ。
母子家庭だったし、母親もお父さんが18歳の時に死んでしまったから、
このボロ家にひとりだった。
だからお嬢様育ちのお母さんなんて、とても手の届かない人だと思ってた。
でもお母さんはすべてを捨てて、お父さんの所にきてくれた。
このボロ家に……」