翌日ちかは嫌々ながらも神谷の課題をこなして学校へ行った。

朝職員室にノートを持って行き神谷に渡すと

「放課後取りにくるように」

と言われた。

「はーい」

気のない返事を返してちかは教室に向かった。



教室に入ると麻里が走り寄って来て

「どうだった!?大丈夫だった?」

と心配して尋ねた。



放課後、ちかは再び職員室の神谷を訪ねた。


この時間はいつも西陽が射していて神谷の顔が見にくい…
ちかは机に向かって仕事をしている神谷に声をかけた

「先生?」

神谷は机に視線を落としたまま少し手を挙げ、やがてちかを見ると笑った。西陽のせいかその笑顔が眩しく見えた。
ちかは何故か鼓動が高まるのを感じた。

「ちゃんとやって来たんだな。見直したぞ」

神谷はちかの頭をくしゃっと撫でた。

「でも、惜しいところがある、印をつけたから少し今やってごらん」

「あ、はい」

ちかはノートを受け取ると神谷が引いた神谷の横の空いてる席に腰を下ろした。

少し神谷を伺いながら問題に目を落としたちかに神谷は近付いて来てノートを覗き込んだ。

ちかは一瞬ドキッとすると同時に神谷から漂う甘い香りに気を奪われた。

「ほら、一問でいいからやって」

「あっ…はい。先生、いい匂い」

「な! バカ 早くやれよ」
神谷は少し紅くなってちかの頭を小突いた。

(可愛い…紅くなってる)

ちかは何故か少しニヤケて肩をすくめ

「はーい」

と言った。

神谷は少し顔を離して咳払いし、ちょっと離れた位置からノートを覗き込んだ…

「それが違うんだよ 助動詞の文章は…」

神谷の説明を聞きながらちかは何故か胸が熱くなるのを感じた。

30分ほど神谷に教えてもらってちかは職員室を後にした。

家に帰るだけのいつもの道を何故か浮かれた調子で歩いていた。

(帰って早く課題やらなきゃ)


ちかは早く明日の放課後にならないかなあ と自分でも気付かぬうちに願っていた…