森田はスピードを上げて車を走らせ続けた

「ねぇ 淳史 どこに行くの? ねぇ」

「…」

森田は答えない

「ねぇ 淳史 お願い 車を停めて!ちゃんと説明するから!」

「…」

「ねぇ 淳史…スピード出しすぎだよ!

お願い 停めて…!」

「…」

「淳史…!」

ちかは森田の膝を掴んで揺すった!


森田はようやく車を線路沿いの道の脇に停めた

森田は無言で正面を見ている、ちかは泣きそうに目を赤くして森田を見た。

「どうしてこんな事するの!?」

ちかの問いに答えず森田は言った

「説明しろよ」

ちかはうつ向いて涙を拭くと 顔を上げて森田を見た。


「神谷先生は救急病院から回されてきたの、突然だったし最初見た時は誰か分からないくらい痩せてて…担当にされた時は正直 戸惑ったわ…

でも先生は記憶も無くて口も聞けなくて…

淳史に話そうと思ったけど…仕事の事だし…

淳史に心配かけても…って…

でも信じて!何かやましい気持ちがあって黙ってたんじゃない…」

森田は無言だった

「淳史…」

ちかはまた下を向いた

「記憶…ないのか?」

森田がやっと口を開いた。

「うん…多分…それより先に 口を全く聞かないから…分からないの…」

森田はハンドルに腕と顎を乗せると

「そうか…神谷先生が…」

と呟いた、ちかは更に続けた

「指輪は 少し大きかったから…落とすといけないし…途中でナース服のポケットに入れて…で慌てて帰り支度したから…ゴメンね…」

森田はちかを見た

「分かったよ」

「ホントに?」

「ああ…分かったよ」

「だったら もう こんな事しないで…」

ちかが真っ赤な目で訴えた

「ああ…ごめん…もうしない…」

「約束ね…」

「ああ…分かったよ」

そう言うと森田は車を降りて車にもたれる様に立った。ポケットからタバコを出して火をつけた

ちかは助手席から出て森田の隣に並んで立った

「タバコ…止めてたのに…」

タバコを吸う森田に言った。

「え ああ…」

「いつから?」

「少し前」

「私のせい?」

「いや…」