「あ…」

海からの夕陽を浴びて、神谷の姿は眩しく見えた。

「お前どうしたんだ?連絡もなしに!」

神谷は少し怒っていた。

「別に…、ちょっと気分が乗らなかっただけ…」

ちかは海を見たまま答えた。


「お前なあ、分かってんのか?待ってたんだぞ。」
「ごめん…」

神谷は階段を降りて来てちかの横に並んで腰を降ろした。

「そりゃまあ、乗り気でないって時もあるだろうよ、でもさ、お前は今が大事な時で、志望校も…」

「ああ!!!!もう!!!!!」

ちかは叫んで神谷の言葉を遮った。

「!?」

驚いた顔の神谷にちかは叫んだ

「それだけ!?ねぇ! 先生は本当にそれだけ!?」

「青井…?」

「私は……私わぁ!!!…」
ちかは言葉を詰まらせて唇を噛んだ。

「私は…先生を…」

涙が溢れてきた…

「もういい!」

叫んで神谷を振り切り走り去ろうとするちかの腕を彼が掴んだ

「………?」


神谷は目を見開き涙を溢すちかの腕を力いっぱい引き、ちかを抱き締めた…。

「!?…センセ…?」

神谷はちかを抱き締めたまま言った

「それだけじゃないさ…」
神谷はちかを抱いてる腕に力を込めた…





アルバムを見ていたちかは目を閉じた…


それから その日の後の事は夢の中の様でよく覚えていなかった…

ただ 神谷の香りと腕の力…

家に帰ってからも眠れず 何度も何度も携帯電話を開いては閉じ を繰り返し…

顔が火照って…ドキドキして…


気付けば翌朝だった…開いた携帯を握りしめていた



あの日の事を思い出すと、今でも胸が高鳴るのを感じる。


ちかは病院で見た神谷の事を思った

痩せて、あの美しく輝いていた神谷とは思えないほどの生気のなさ…


「先生… 准… どうして…」


ちかは呟いた…

「何があっても…自分を大切にする…」


ちかは神谷が約束した言葉をまた つぶやいた…


「何があっても…」