病室のドアの前に立つとちかは大きく息を吸った。

ゆっくりとドアを少し開いた。

窓際の車イスに座った彼は窓の外を眺めていた。西陽が射していて…その姿は輝いて見えた。

「神谷さん…?……どうですか?調子は」

ちかは声をかけたが返事はない。
担当医の話によると神谷は喋る事もできないほどの症状らしい。

「眩しくないですかぁ。少しカーテン閉めましょうか」

わざとらしく元気な声をだし窓際に向かいカーテンを引きかけて、ちかは振り返り神谷を見た。

窓の外の遠くを見つめている神谷は、すっかりやつれてまるで死人のような顔だった…


ちかはたまらず神谷の車イスの前に屈み込んで神谷の膝に手を起き顔を見上げた。

「先生…?先生?……先生…」

もう言葉にならず涙が溢れてきた…

「どうして…?先生…。約束したのに……。約…束…したのにぃ!」


ちかは神谷の膝を揺すりながら涙をこぼした…



巡回を終えナースステーションに戻ったちかに先輩の杉山が声をかけた。

「どう?神谷さんの様子は」

デスクに腰を下ろしため息をついていたちかは背筋を正しい杉山を見た。

「はい、あの状態では……ご家族も辛いでしょうね…」

「そうかもだけど…神谷さんは独り者らしいわよ」

「え!?」

「ご両親も亡くなってるみたいだし…だから介護のあるこの病院に送られてきたの」



(……そんな…)