次に気が付ついた時、俺は携帯を握った状態のままベッドに横になっていた。どうやら陽奈にメールを返信しようとしていてそのまま寝てしまっていたらしい。
既に夕陽は沈みかけ、オレンジ色だった部屋も大分暗くなってきている。そろそろを電灯をつけないと足下が見えなくなりそうだ。
――あ…陽奈に返信してない……。まあいいか、明日学校でどうせ会えるんだし。
そう考えて俺は携帯を閉じた。いちいち返信するのも面倒だし、退屈な学校は明日もあるのだから別に今返信を焦ってする必要はないだろう。それにメールを返信しないのはいつもの事だ。
「腹減ったな……飯食いに行くか」
独り言を呟きながら時計に目をやると、いつの間にか午後6時を回っていた。そろそろ寮母が作った夕飯が出来上がる頃合いだろう。
「食堂行くか……」
重い腰を上げてベッドから降りる。やはり外が暗くなっているため手元と足下が見えない。俺は電灯のスイッチを探して手をさ迷わせた。
電灯が点灯すると部屋が一気に目視出来るようになった。
「えっ!?」
いきなりの事で思考が一瞬停止しそうになった。なんと部屋のベッドが置いてある角とは反対の角に白装束のじいさんが笑顔で立っていたのである。
じいさんの手には木で作られた、物語で魔法使いが持っているような杖があり、長くて白い髭を顎に蓄えているその姿は正に俺の知っている神様そのものだった。
「こんばんは」
特に大きい声でも無いにも関わらず、宇宙全体に響くんじゃないかと思うほどによく澄んだ声だった。
「……こ、こんばんは」
「なんじゃ、元気が無いのう。声に覇気が感じられん」
俺の挨拶が元気が無くて不服だったらしく、眉を寄せるじいさん。
「最近の若いのは元気が無くて困る。礼儀もなっとらん」
「はぁ……」
何が起こっているのか、何を怒っているのかが全く把握出来ていない俺は、呆然とするしかなかった。

