寮に帰ると制服を着たまま、カバンを放り捨ててベッドに倒れ込んだ。夕陽が射し込むオレンジ色の部屋で、外からの聞こえてくる音を音楽のように聴いて楽しむ。これはここ最近の暇潰しマイブームだ。
若干耳鳴りがするのは、大方、学校で騒がしい2人に囲まれていたことが影響しているに違いないだろう。
――学校じゃこんなに静かなことなんて、ほとんどないからな。
いつも俺の周りには必ず翔太や陽奈がいる。時折ウザく感じることはあるものの、この2人のお陰で休み時間だけは退屈することがなかった。
――何だかんだであの2人のお陰で…今、学校に通えてるのかもな……
長い付き合いの2人は俺の家の状態や事情もよく知っている。会話の中で何時(いつ)しか俺の家のことを話すのはタブーになっていた。これも俺に気を使ってくれているのだろう。
初等高学年から俺が入寮したときも、『音勇が1人で可哀想だ』とか何だかんだ理由をつけて寮母を説得し、よくお泊まり会を開いてくれた。そのお陰もあり寮生活にはすぐに慣れることが出来た。
俺が風邪で寝込んだ時も、寮でずっと寝ていた俺を学校を早退してまでわざわざ2人は見舞いに来てくれた。翔太が言っていたが、その時の陽奈の心配様は半端じゃなかったらしい。
ちなみに、見舞い目的で早退した2人は先生にもちろんこっぴどく叱られ、俺の風邪がうつりかけたというのは今となっては笑い話だ。
いつも幼なじみからもらってばかりな俺。幼なじみにあげられるようなものは俺は何一つ持ち合わせていなかった。ギブアンドテイクなんて言葉、俺たちの関係には存在していなかった。
――少しは感謝するべきなのかもな。とはいえ、口に出すのは恥ずかしいしな。
結局、こうして俺は何も言わないのだ。そうして今まで幼なじみたちと過ごしてきたのだ。

