陽奈は悲しそうな表情をして俺を抱きしめた。さっきのお母さんに頼んでいる時のようにキツくではなく、優しく、大切な物を抱くように。
「最近ずっと不思議な夢を見てたの……黒い猫さんと一緒に、カードを使って何かと戦う夢……」
最近ずっと見ているという、黒い猫と共にカードを使って何かと戦うという夢。『カード』というのはわからないが、『黒い猫』というのは俺で、『戦う』というのは浄化戦のことだろうか。
それが正しいのだとしたらやはり陽奈がゼウスが導いた主、ということになってしまうのだろうか。
「私、猫さんが雨の中で倒れてるとき、その夢が本当になるんじゃないか、って思ったの。パートナーの猫さん助けなきゃって……」
だからあんなにも必死だったのか。しかし陽奈ならその夢を見ていなくても俺を放っては置かなかったはずだ。陽奈はそういう人柄なのだ。
「でも……危険なことかも知れないんだ。陽奈が危険な目にあうかもしれないんだ」
「大丈夫だよ! 何だか、猫さんと一緒なら出来る気がするもん。お願いだから戦いのことを話して?」
今、俺は二者択一を迫られている。
前者は陽奈を主とすること。そうすれば主は見つかり、浄化戦に参加することができる。
後者は陽奈を主としないこと。浄化戦への参加は主を見つけるまで出来なくなってしまう。しかし、少なくとも陽奈を危険な目にあわせることはない。陽奈の身の安全が保障されるのだ。
「猫さん、悩んでるね、私を認めるか認めないか……。優しい猫さん……。何でか知らないけど、猫さんの考えてること少しだけわかるの。大丈夫だよ、猫さん。私頑張るから……」
その言葉がやけに心に響いた。
陽奈を主として認めよう。陽奈自身がここまで覚悟を決めてくれていたし、何より、『夢』を見たという事実があった。
きっと、中村陽奈がゼウスが導いた主なのだ。

