ロザリオを失った陽奈は立ったままガックリと項垂れた。そして直ぐにヘナヘナと床に座り込んでしまったのだった。
「うぅ…私……あれ、部屋が散らかってる」
顔を上げた陽奈の瞳には、ちゃんと生気が戻っていた。やはりさっきまでの陽奈は何かに操られていたようだ。キョロキョロと辺りを見回しているということは、さっきまでの記憶は無いのだろう。
――良かった。危うく話せる猫ってバレるところだった……
思わず叫んでしまったが、あんなことしては陽奈に話せることがバレてしまう。普通の猫が話せるなんてありえないことだ。バレていないなら良いのだが。
「ねぇねぇ、猫さん?」
陽奈が真剣な瞳で俺を見つめる。俺は言葉を聞くために陽奈を見上げた。
「さっき、『やめろー』って言ったよね?」
――げっ! バレてる!!
さっきの記憶は無いと思っていたのだが、そこは覚えていたらしい。まずいことになった。どう誤魔化したものか。
「ニャ〜……」
「ウソ、私聞こえたもん」
恥ずかしさを圧し殺して猫の鳴き真似をしたが残念ながら玉砕。こういうときの陽奈はもの凄く鋭く、誤魔化そうにも誤魔化せないのだ。それは幼なじみの俺はよく知っていることだった。
「猫さん?」
陽奈の視線が痛い。ものすごい熱い視線を送られている。
こうなった陽奈を止める術は史実を認めるしかない。こうなったら歯止めが効かないのが陽奈なのだ。たぶん事実を認めるまでずっと熱い視線を送り続けるはずだ。

