陽奈はゆっくりと立ち上がるとロザリオを胸に抱いた。そして陽奈らしくない暗い声で呟き始めた。
「我、浄化戦ヘ参加スル者ナリ。臆スルコトナク勇マシク闘イ、全力ヲ尽クスト、コノ身二誓ウ……」
――まずいぞ、なんか陽奈の様子が変だ!!
さっきまでの明るい陽奈ではないただならぬ雰囲気に比例したかのように、陽奈の周りを光と風が集まり始めた。ベッドのヘッドボードに置かれていたぬいぐるみは倒れ、整頓されていた机からはノートや教科書が風で床に落ちる。
陽奈自身は完全に誰かに操られてしまっているようで、もはや瞳に生気は全く無い。このままでは陽奈が本当に浄化戦の参加者になってしまう。
――どうしたらいい!? クソ、急がないと!
頭をフル回転させるが、良いアイディアが浮かばない。人間、いや今は猫だが、焦るとダメなのは重々承知だ。しかしこの状況は焦らずにいられない。
「浄化戦ノ規約二則リ、我、契約ヲ行ウ。我コソハ主、名ヲ中村陽奈。共二歩ミシ従者ノ名ヲ黒瞬(コクシュン)ト命名」
言ってることが本格的にまずくなってきた。風と光はさらに力を増して陽奈の周りを回っている。
本当に止めないと大変な事になってしまう。どうすればいい、どうすれば。
「今コソ、契約ノ時!!」
陽奈は胸に抱いていたロザリオを前に勢いよく突き出した。
――今だ!
「やめろー!!」
俺は叫びながらその突き出されたロザリオに体当たりをした。その反動で陽奈の手からロザリオがポロリと床にこぼれ落ち、光と風が一瞬にして沈静化した。

