数分後、ホットミルクを入れた器と何やら食べ物を持ってきた様子の陽奈は、まだ動くことが出来ない俺の横に座った。
「ごめんね……こんなのしかなかったの……」
差し出した食べ物はソーセージ二本とハム一切れ。空腹の絶頂期だった俺は、つい自分が人間だったということを忘れてそれにがっついてしまった。昨日の夜から今まで何も食べずに歩き続けていたのだ。その空腹感は味わったことのないものだった。
「おいしい? えへへ」
美味しそうにソーセージとハムを食べている俺を見て嬉しそうに微笑む陽奈。いつの間にか陽奈はフォーステールを解いてセミロング状態になっていた。幼なじみでもあまり見慣れない髪型だが、別に似合っていない訳ではない。ただ単にいつもの髪型と違う幼なじみに違和感を感じただけだ。
「明日ちゃんとしたご飯買ってくるからね!」
何故か満面の笑みを浮かべて俺のことを見つめる陽奈。ホットミルクを飲んでいる俺を優しく撫で始めた。
「私ね、ずっとずっと猫さん飼いたかったの。なのにお母さんが許してくれなかったんだよ〜……? それに夢が……あ、そうだ猫さん。さっきのネックレスもう一回見せて?」
何かを思い付いたように俺の首にかかっているロザリオを取ると、じっくりとそのロザリオを眺め始めた。
「ありゃりゃ、泥で汚れちゃってるね。もしかしたら…ここに……猫さんの住…職書いてある……かも………しれな……」
ロザリオを眺めていた陽奈の瞳がだんだんと生気を無くし始め、言葉が途切れた。不穏に思った俺はホットミルクを飲むのを中断して、咄嗟に陽奈の方を向いた。見たところ、陽奈は誰かに操られているようにも見える。

