ゼウスはまた1つコホンと咳払いをすると、懐から綺麗な水晶で出来ているネックレスを取り出した。そのネックレスには6つの丸いくぼみがあり、そこへ敵を倒した時に相手から奪える宝石をはめると思われる。
「これが敵と戦って勝利したときに奪える宝石をはめるネックレスじゃ。君が主と認める者の首にかけてもらいなさい。それが主との誓いになる」
そう言ってゼウスはそのネックレスを俺の首にかけた。少し重い気がするのは、きっと俺が猫だからだろう。
ちなみに、もちろん人間用の長さに設定されているネックレスなので、猫の俺には長すぎる。
「わかりました」
こんな非現実的なことが起こった俺の心境は複雑だった。緊張、不安、恐怖、怒りはもちろんだが、マンガやアニメのようなことが現実で起こったという期待や喜びといった感情もあった。ぐるぐると感情が回転し、今は情緒不安定な状態なのかもしれない。
「そう不安がるでない。こうなってしまった運命はもう変えられないのじゃ。その運命を憎まず、楽しめば良いのじゃよ」
ゼウスの言っていることはわからなくもないが、誰のせいで俺の真っ当な運命が変わったのかわかっているのだろうか。
全世界で全人類に街頭アンケートを取っても、間違いなくゼウスのせいで圧勝だろう。
「ではの。汝(なんじ)に幸福が訪れんことを」
ゼウスはそう言うとゆっくりと俺を撫でるのを止め、合掌した。
周りから白い光がゼウスの体に集まり、その光に包まれてゼウスは消えていった。
ゼウスが消えてしまった後の十数分、俺は今まで目の前で起こっていた摩訶不思議な出来事の脳内整理を行っていた。
――夢ではなく、現実。
俺は現実で、非現実的なことに直面してしまったのだ。これまで培ってきた常識が一気に崩れ去ってしまった気がした。