正直、自分の目を本気で疑った。何度も何度も鏡を見直す。それでも鏡に映し出された自分の姿は人間ではなく、黒い猫の姿のままだったのだ。
「君は普段からよく寝ておる。それは前世の猫の記憶が多少なりとも残っておるからじゃろうて」
そんな非現実的なことを言われても、ゼウスの言葉には少しの信憑性が出て来てしまった。神様かどうかは定かではないとしても、自分の先祖に猫がいてもおかしくはないはずだし、何より俺の性格が猫に似ていた。
「そのまま黙って説明を聞きなさい」
ゼウスはにこりと不適な笑みを浮かべると、動けない状態でいる俺の所まで歩いてきて俺を撫でながら話し出す。
「さっき言った通り、まず君は主を探さなければならない。その探し方は自分の思うようにやれば良い。私が導いてやるからのう」
今までとは違い、ゼウスの口調は少し優しげだ。
「そして主を見つけたら『浄化戦』のことを説明すること。そして主は必ず参加しなければならない。『浄化戦』のことについては、君の口が、主の求める答えを回答してくれよう。ただし、君が人間だということがバレてはいかん。バレたら君は人間の記憶、思考力を消され、永遠に猫として生きていくことになる」
理不尽過ぎる。勝手に巻き込んでおいて、人間だとバレたら本当の猫になってしまうとはあまりにも理不尽だ。だがゼウスにそんな思いは伝わらないだろう。ましてや口封じされている状態なのだ。この思いを伝える術さえ残されてはいない。

