「……なさい、起きなさいって!」

夢から現実に連れ戻す悪魔の囁きに目を覚ます。

重たい目蓋を開け上半身を起こす僕。


『……おはよ〜』

「もぅ!早く起きないと遅刻するわよ?」

呆れた顔の母さん。


そう。今日から高校生。
初日から遅刻は出来ない。


「ご飯は?」

『ん〜?パン』


母さんは僕の返事を聞きリビングへ向う。

まだ寝ている体を起こす。

着慣れない制服に着替えてリビングへ向う。



淹れたてのコーヒーの香り。
焼きたてのトーストの香り。
こんな朝が好きだ。



『あれ?綾姉は?ミルクとって』

「まだ寝てるわよ?何か用?」

『いや、別に。大学生は羨ましいなぁ』

食卓で母さんと他愛のない話をする。




食事後身嗜みを整え家を出る。


『いってきます』

「あっ!空忘れ物」

『えっ?朝飲んだから大丈夫だよ?』

「一応持って行きなさい」

そう言い母さんが胸ポケットに入る位の小瓶を渡してきた。

錠剤入りの小瓶。
僕はそいつを見つめる。


『まだまだこいつは手放せない……か』


苦笑いを浮かべ受け取り家を出る。


朝日に照らされ光沢を増す黒髪を靡かせ桜を見上げる。


秋月空。


これから何が起こるか不安と期待を胸に学校へむかう。