「恭也、でしょ?」



名前を言い当てると、猫は満足そうに笑った。



この世で猫が笑った瞬間を見たことがあるのは、断言する、嶌子だけだろう。



「ソラになる前のことは覚えてるの?」



相手の正体が一応わかったので、嶌子の方もだいぶ落ち着いた。



もはや開き直り、何でも来いだ。



「こいつになる前か?」



心なしか、少し猫は表情を固くした。



「覚えてないな。」


「そっか。
幽体離脱とかだったり?」


「あぁ、かもな。」



フイッと猫は顔をそらした。



「ねぇ、今の間、ソラはどうなってるのかな?」


「眠ってるんじゃね?」



眠ってる、か。



取り敢えず、ソラに害がないといいな。



嶌子が自分なりに頭を整理していると、猫はとことこと勝手に部屋の中を歩き回った。



「あっ、ちょっと!」



なんだよとでも言いたげに、猫は振り返った。



「勝手に部屋の中入らないでよ。
あんた身体猫でも中身男でしょ。」


「あぁ、悪い。」



しなやかに、猫は戻ってきて、テレビの前に寝そべった。