「一瞬でさ。
ただ意識が途切れる寸前、あぁ俺死ぬんだ、って。」



嶌子はテレビから目が離せなかった。



“普通自動車を運転していた会社員、坂井恭也さん(28)の車と接触し、逃走していた容疑者は、近くの漫画喫茶に潜伏していた模様…”



逃走していた?



「俺、即死らしいな。」



恭也は、姿勢よく座って、テレビを見ている。



よく、そんな冷静に…。



あたしは相手を殺してやりたいのに、貴方はよくそんな落ち着いてられるわね。



「おい?」



と、と恭也が嶌子の膝に前足を置いた。



「大丈夫か?」



大丈夫なわけ、ないでしょ。



ぶわっと涙が出てくる。



恭也は慌てたように、耳と尻尾をピンと立てて嶌子の膝に登った。



「何だよ、なんで泣くんだよ。」


「馬鹿!
せっかく…。」



せっかく、10年ぶりに会えたのに。



これから恭也がもとの身体に戻ったら、連絡しあって会えるかと思ったのに。



もう、街中で偶然会えるかもしれないということはない。



今まで期待してきた“もしかしたら”会えることは二度とない。



「おい、泣くな。」


「泣く!」