次の日、僕たちは早めに朝食を済ませて旅館を出た。行先は箱根に行くと決めた時から予定していた彫刻の森美術館だ。

天気はあいにくの曇り空だったが、それでも雄大な山々に囲まれた森の中に佇む彫刻たちは、どれも芸術的で(といっても、どの辺りが芸術的なのかは僕ごときには良く分からないけど)見ているだけで心を落ち着かせてくれた。
中には、どでかい目玉焼きの形をしたベンチや、裸で芝生にうつ伏せになって寝ている真っ白な人間の彫刻など、思わず吹き出してしまうシュールな彫刻もあり、僕は笑いながら次々に写真に収めた。リカも楽しそうだった。自分より何倍もある巨大な騎士の彫刻の下で、騎士と同じポーズをとって僕にいう。

「ねえ、恥ずかしいから早く撮ってよ」

僕はわざとゆっくりアングルを確認するふりをして、もうちょっと右とかいいながら、変なポーズで固まるリカを見て笑った。単純に楽しい時間だった。
手をつないで歩く僕たちの前から、遠足できた幼稚園児たちが二列に並んでやってくる。僕たちと同じように隣同士しっかりと手をつないで、てくてくと歩いてくる。先頭にいた若い女の先生が、僕たちを見ていった。