「沖田さん!!」

 葵は走ってきた沖田に声を掛けた。

 「小宮さん、隊服もらったんですね!大きさも、ちょうどいいみたいで良かったです。この2人ともう挨拶はしましたか?」

 「いえ、まだです。」

 葵は男性2人をチラッと見た。

 「そうなんですか?じゃあ、紹介しますね!…えっと…こっちは安藤 早太郎さんです。」

 「安藤です。よろしくお願いします。」

 安藤 早太郎<アンドウ ハヤタロウ>。池田屋事件の傷が元で死んだ人物。

 「こちらこそ、よろしくお願いします。安藤さん!」

 安藤はニコッと葵に微笑んだ。この頃安藤は40代。だが、とてもそうは見えなかった。

 「こちらは、楠木 小十郎さんです。」

 「くっ、楠木 小十郎です!」

 楠木 小十郎<クスノキ コジュウロウ>。隊中一、美しいと言われた人物。だが、桂 小五郎の命で新撰組に送り込まれた長州の間者。最後は原田 左之助に斬られて命を落とす。

 「……綺麗な人ですね…。あっ、ごめんなさい。小宮 葵です。」

 葵は2人にペコッと頭を下げた。

 「えっと、一昨日の宴で近藤さんが言ってましたけど、芹沢さんの小姓をしている方です。今日は林さんの体調が悪いようなので、変わりとして来てもらいました。」

 沖田が少し説明し、“それでは、行きましょう!”と言う声とともに、見回りに向かった。


 町の中、浅黄色の羽織はやはり目立った。沖田達は慣れているようであったが、葵には町人たちの視線が刺さり、居心地が悪かった。ふと、後ろに強烈な視線を感じ振り返ると、大勢の女性が後をつけていた。よくよく耳を澄ませば“楠木さまぁ”と言っている声が聞こえる。

 「すいません…僕、見回りの邪魔になっているようですね…。」

 葵は隣から聞こえた声に、そちらを向いた。葵の隣では、申し訳なさそうに顔を曇らせる楠木がいた。その声に沖田は、“そんなことありませんから、気にしないでください。”と答えた。葵は、どんどん増えていく楠木ファンを一睨みした。それを合図に、女性達はまさに、蜘蛛の子を散らすようにして散っていった。

 「楠木さん…。責任は感じなくていいみたいですよ?」

 葵は、そう言って先程まで大量に女性がいた場所を指差した。