「少し前からいましたよ?全く気付く気配がないので、何かあったのかなぁ…と…少し、話をしませんか?こんな場所ではゆっくりと話もできませんので、壬生寺の方で…」
葵は楠木に微笑んだ。綺麗な顔を困惑気味に歪めながらも、楠木は頷いた。
「何か、悩み事でもあるんですか?」
「……」
葵は壬生寺の石段に座り、子供達が遊ぶ姿を目で追いながら楠木に問い掛けた。
「…答えられませんか?」
葵は楠木が隣に座ったのを確認し、楠木へと視線を移した。
「…最近、妙な視線を感じるんです。」
「妙な視線?」
葵は深刻な表情になった楠木の目の下にできている隈を見つけ、自然と真剣な表情になった。
「…はい。女の人達に見られている時に感じるような不快感があって…でも、違うんです。女の人達が見ている時に感じている視線とは違って…なんだか寒気がして、寝る時にも感じるんです。それで…最近、よく眠れなくて…」
「…そう…だからあんなに考え込んでいたんだ…」
葵の言葉にコクンと頷いた楠木は、なぜか泣きそうな顔をしていた。
「…だ、大丈夫ですよ。きっと、気にし過ぎているんですよ。」
「…そうだと、いいのですが…」
葵はギュッと楠木の手を握った。葵の手よりも少し大きい楠木の手は、ヒヤリとしていた。
「ほら、今は大丈夫ですよ?俺はそんな視線感じませんし、きっと気のせいですよ。」
「…総隊長……有り難う御座います。」
楠木はやっぱり、泣きそうな顔をしていた。次の瞬間、足にぽんと当たった感覚に葵は楠木から手を放し、足元を見た。
「…鞠…?」
葵はそれを手に取り、遊んでいる子供達の方を見た。しかし、その鞠の持ち主らしき子供はいなかった。
「………あの…」