「早く起きて。7時だよ。」

ソレを聞きつつも中々起きられない。あともうちょっと、と寝返りを打ち、布団を頭から被るも、起こされてしまう。

「ほら。今日は朝勤なんだろ?」

ふぁい、と気の抜けた返事をして、目を擦りながら起きる。

「おはよ、ほんとお寝坊さんだな、俺の姫は。」

恥ずかしげもなくやわらかく微笑んで、『姫』と呼ぶ彼、山本翔太郎。翔太郎の柔らかな表情に少し照れる彼女、秋川澪。

「姫って…。恥ずかしいなぁ。翔太郎くん。」

朝から『姫』と呼ばれたものだから、澪は羞恥の念にかられる。

「ほら。早く支度しなきゃ。患者が待ってるよ。」

「うん。今日も私を呼んでいる。」

患者。澪は医者で、周りの人間には凄腕だ、とか、天才ドクター、なんて陰で言われていたりするが、当の本人は、凄腕でもないし、ましてや天才でもない、そう言っている。自分に甘くならないところが、彼女の魅力なんだろう。周り曰く、常に患者を気にかけているらしい。彼女はただ患者と喋りたい、ただ医局に居るのが嫌らしい。しかし、患者にも周りの医者にも、看護師にも慕われている。

「さ、朝御飯だ。」

澪の頭にぽんっと、右手で乗せ、撫でる。それが心地良いのか目を閉じる。その手が彼女の活力にも繋がっている。