中三でも同じクラスで夏休みに偶然、本屋のライトノベルコーナーで須賀を見かけた。
そんなの読みそうな感じじゃないのに、隠れヲタクなのかなとか。
それが切っ掛けで本を貸し借りするようになった。

「藤沢、受験する高校決めた?」
「うーん…」
須賀は県内でも有名な進学校を受験するらしかった。
「将来はどうするの」
「…解らない」
「じゃあ俳優がいいって」「そうかなあ。須賀はどうするの」

「父親の仕事にも興味あるけど。家族でヨーロッパに行った時に色々な建物見て感動したし。でも日本の建築もすごいし」

文字通り目を輝かせながら話してくれた。

「僕は子供の頃、コックさんになりたかった」
「そうなんだ」
「今はうちの家族のこと、あんま好きじゃないんだけど。子供の頃、近所の狭い洋食屋に行くのが楽しみで。くだらない事で笑って、なんか楽しかったの覚えてる」
「コックも向いてるかもな!俺、ミネストローネが好きなんだ。メニューにのせて」
「いいよ」


中学卒業と同時に父親の転勤で九州へ引っ越した。高校デビューというやつで、周りに一人も知り合いがいないというのは清々しかった。

髪型や服装を少し変えて柔らかく笑って話を聞くだけで友人もできて彼女もできて。

地味で暗くて友達もいなかった自分を忘れられた。

モデルとしてスカウトされてからは中学までの事を忘れようと必死だった。

シュガーからのメールにも返信しなくなって。
気が付いたらシュガーからの連絡は途絶えていた。


大学受験の前にまた父親が転勤する事になり、中学まで住んでいた町に戻った。会いたかったのはシュガーだけだった。


「もしかして、藤沢?」
中学の同級生に声を掛けられた。

「なんか変わったなー!」「彼女とかいるのか」
彼らも地味だったから少し話してはいたけど、友達というのとは違った。


「あのさ須賀って元気?」

その名前を出した途端、2人はひどく妙な顔をした。
「お前、知らないのか?」「え」
「須賀の妹、殺されたんだよ」