あたたかな雨



「う、うん。ごめんね」

きっちりとしめているタイの色は、赤色。

私と同じ学年だった。


「そう。ならよかった」


彼は目を柔らかく細めて、私を見た。

本当に優しそうで、思わず私まで笑顔になってしまいそうだった。

不思議だった。

身長が高くて、目線的には見下されているのに、威圧感が全くなくて、優しさだけが包み込んでいた。


「よかったら、この傘使わない?」


何もいわない私に、彼はおずおずといった感じで傘を差し出した。


「あ、大丈夫だよ。私結構家近いし」

「でも、このどしゃぶりじゃ大変だよ? それに乙原さんの家って近いかな?」


私は目を少しだけ開いた。


家はだいたいここから2kmぐらいだから、近くはないかもしれない。

だけど電車通学の人に比べれば全然近い方だ。


でも、私が驚いたのはもっと他にあった。

乙原花澄。

それが私の名前だ。

なんで、私の名前を、彼が。

驚いて固まったのが自分でもわかった。