蜃気楼。


「……………。」

何も言わない俺に、女はまだ続ける。


「時間ありま「マフラー、ありがとうございました。」


多分、時間ありますか?

と聞くつもりだったんだろう女の声を、

結川真央は中断させた。

ん、マフラー?

あぁ。

見ると、結川真央の手には俺のマフラー。


「ん。」


俺が受け取ると、助かりました、とまた頭を下げる結川真央。


「なぁ、結川ってマフラーしない人?」


「いえ、します。」


「んじゃぁ、はい。」


俺は、手の中にあるマフラーを差し出す。


「持って来てねーんだろ。」


アッ、小さくそう呟き顔を赤らめる結川。