今夜も何も変わらなく見えた。古ぼけたことだけが取り柄の白いコンクリート造の建物。



メイは2階へ。俺は医院で右手にペプシ。裕太は俺の目の前で、椅子に深く腰をかけている。





「今日の殺しはいくらだ?」

俺は静かに問い掛けた。





裕太の頭の包帯。夕方、新しかった赤は、今は、もう、古い赤に変色していた。





裕太は黙秘権を行使する。





「いくらだ?って聞いてんだ。同じことを3回聞くのはめんどうだ。さっさと答えろ。」

裕太の栄養不良の唇は真一文字(まいちもんじ)のまま動かない。ならば……と、俺は話の矛先(ほこさき)を変えてみる。





「で?神父との損害賠償金の話はどうなった?」

むさ苦しい男2人での医院の空気。裕太はその質問にも黙秘を選択した。





全く話さない裕太の姿。この世の何よりも頑(かたく)なに見えた。



しかし、悲しいかな、その無言は、神父の支払う意思が“NO”だと示していた。