エンはいつもソウだ。

考えナシというか、野性的というか、後先考えずに行動を起こす。


試合が近いのだから、今問題を起こせばエンだけではなく部全体に影響が出てしまうのに、



「エン!ダメじゃん」

「何が?」


あの場所からダッシュで逃げ出したあたしは肩で息をしながらエンを睨み付けた。


「朝練、抜けて来たんでしょ?」

「それは…、鈴が絡まれてるって聞いたから」

「だからって…」


とにかく、あたしなんかの為に迷惑なんかかけたくないのだ。


「あたしは大丈夫だよ。今だって大丈夫だったでしょ?」


余裕を匂わす笑顔を作ってエンを見ると、ムッと顔をしている。


「大丈夫じゃねぇよ!今は大丈夫だったかもしれないけど、次は分からないし…」


エンの言いたい事はわかる。

あたしは女の子だから、どんなに頑張ったって男子の力には敵わないって事も、何かあったら泣きを見るのは女の子のあたしだって事も。

それでも、


「助けてくれて、ありがとう。だけど、あたしの為に無理しなくてイイから。ね?」


俯くエンの頭をポンポンとして


「あたし、まだ仕事残ってるから行くね?エンは部活戻ってね?」


あたしは生徒会室に向かって歩き出した。

一般生徒がちらほらと登校してきているから、朝練は終了しているかもしれない。

エンには悪い事しちゃったなぁ…



キョロキョロしながら歩いていると、


「リ~ン♪」


ギュッと腕に絡み付くあたしと良く似た顔の妹がいた。



「おはよ、藍」

「うん、おはよ!ぁ、ねぇまぁ君見なかった?部室にも教室にもいなかったんだけど…」


クルンとした目が上目遣いであたしを見ている。可愛い小動物みたいな目はウルウルと潤いを帯びていて宝石みたい。


「エンは…」


「あぁ!まぁ君だ!またね?鈴♪」


体育館側から歩いてくるエンを藍が見つけて、あたしの腕を振りほどく様にして行ってしまった。

途端に冷たさを感じる腕を自分の手で掴む。


藍はエンが大好きだから…