体は相当倒れているはずなのに、桜に当たる感触がなかった。
いや、それどころか、さくらの体は大きく開いた桜の中の暗闇に入り込んでいたのだ。
(さくら)「!!… !!…」
(は、早く出ないと…!!)
出口へ必死に手を伸ばすが、転んで勢い付いた体は止まらない。
体が全て入り落ちた瞬間、
瞬く間に桜の口は閉じて視界は真っ暗になってしまった。
‐ドカッ!!!‐
(さくら)「ふぎゃ!!」
(?)「ぶぇ!!」
いきなり明るいところに出たと同時に、暖かくて柔らかい何かに顔面がぶつかった。
そのおかげか、さくらは痛さを感じることなく起き上がることが出来た。
(さくら)「…何なのよいったい‼……ってあれここは?」
さっき居た場所と全く変わりがない、照らす太陽を見るところ、時間も変わりないように見える。
だが、何かがちがう…
言葉では言い表せないなにかが…
(?)「っ…いって~… 何なんだよ一体!? いきなり人に飛び込んできやがって!!」
先程はさくら以外に誰もいなかったはずなのだが、さくらのすぐ横で、自分と同じ年と思われる青年が、頭を抱えながら起き上がった。
(さくら)「うるさい!!!」
苦手と言うか、嫌いと言うか、
とにかく男なのでさくらは遠慮なく黙れと言う、
(青年)「う、うるさいって… なんて女だ。テメェ!!俺が避けてたら顔面にヘッドスライディング決めて…」
(さくら)「ねぇ!!!」
(青年)「はイ?」
青年も負けじと応戦しようとするが、さくらの言葉で止められてしまった。
そして、そのさくらは胸に引っ掛かる違和感を払拭すべく、青年に質問を繰り返し始めた。
(さくら)「ここはどこ!!」
(青年)「……いや、桜居町(さくらいまち)の「華顔稲荷神社」だけど…」
(さくら)「年は!!」
(青年)「17…」
(さくら)「アンタじゃない!!! 西暦よ!! セ・イ・レ・キ!!」
(青年)「……平成~年… 20~年だけど?」
(さくら)「同じ… そんなはず無い!! だってこの感じ……は!!」
さくらは、目の前の桜の違和感に気がついた。
あの神聖なコブが無い、
いや、コブはあるのだ、さっきついていた位置とは反対側に、
というか、この桜だけ鏡写しみたいに表裏反対になっているではないか。
(さくら)「な…んで…」
さくらはすぐさま桜の横から町を見下ろした。
風景は、さくらが先程見た町並みと全く変わりが無いように見える。
しかし、風が、空気が、さくらの五感全てが違うと言っている。
