(勇次)「で、成果はどうなんだ?」



(さくら)「ダメね、何が手掛かりになるかさえ、さっぱりだわ」



さくらは手帳を閉じ、ポッケにしまった。

その手帳には、「一本桜に体当り ×」と書かれていることだろう、馬鹿げたような内容だが、さくらもそれだけ必死なのだ。

「体当り」が空振りに終わった二人は、もはや華顔神社に用はない、自転車が置いてある駐車場に向け、階段を降りていく、



(さくら)「第一、同じような内容の資料しかないのよ、一本桜の名前の由来とか、この一本桜があったからここに神社が建ったとか…」



(勇次)「ふ~ん… じゃあ華顔神社は意外と新しい神社なんだな」



(さくら)「そうでもないのよ、神社自体は昔からあったらしいわ、違う場所にあっただけで、ほら、あれ見て」



(勇次)「あ?」



ちょうど本堂まで下ったその時、さくらが指差した方向へ目を向けると、本堂の柱に御札が貼ってあった。

御札は幾年を重ね、ところどころ破けて茶色く変色している。

だが、御札に黒の筆で描かれた狐の絵はしっかりと残っていた。



(勇次)「この狐の絵がどうかしたのか?」



(さくら)「狐の絵の後ろに細長い三角形も描いてあるでしょ? これと同じ彫りが入った祠(ほこら)がどこかにあるらしいんだけど、その場所が元の本堂らしいわ」



(勇次)「へぇー…」



プチ情報を得たところで、二人は本堂からさらに下へと向かって階段を降りる。



(勇次)「つまり、後から来た華顔神社は一本桜とあまり関係無いって事だな」



(さくら)「かもね~… まったく…これじゃあ変な知識ばっかついて、全然先に進めないわ、まるで雲を掴もうとしてるみたい」



(勇次)「「今すぐ別世界に帰る方法」なんて本があればいいな」



(さくら)「……人が真剣に悩んでるのに… アンタ馬鹿にしてんの?」



さくらから妙な殺気を感じる、これは勇次が殴られる前兆でもあるのだ。



(勇次)「じ、冗談だよ冗談…」



(さくら)「フンッ!!」



そんな会話をしていると、二人は階段を降り終えて駐車場に着いていた。



(勇次)「あれから1週間過ぎたな… 何か尻尾でも掴めればいいんだけどな…」



(さくら)「本当よ、あぁ…我が家の空気が恋しいわ~…」



さくらの言葉を聞き流しつつ、勇次はポッケから自転車の鍵を取り出し、自転車の施錠を解錠した。