鏡子の車を走らせて20分、三人はイヲンに到着した。

桜居町の「イヲン」は、東京ドーム二個ほどの大きさに100を越えるテナント店が売りで、とにかく広く、人が溢れかえっている。



(勇次)「どうださくら? さすがにイヲンは同じなわけないだろ」



(さくら)「……」



さくらは目を点にしてフリーズしている。



(勇次)「さくら?」



(さくら)「は、ハハン!! が、がが、外見が同じだからって何よ!! 大切なのは中身よ!! そう!! 人と同じ!! 外より中!! 中身が大事!!」



(勇次)「……」



あからさまに様子がおかしい、

妙にテンションが上がっていると言うか、何か危ない薬でもやっているのではないのだろうか、

それは冗談であるが、

とにかく、こういった時のさくらは、完全に自我を忘れているのだ。

病名は「中二病」と言ったところか、



(さくら)「さぁ!! 行ってみよー!!」



そしてさくらは無い胸を張り、店内に足を踏み入れ、



(さくら)「全く同じじゃないのよー!!」



そして叫んだ。



(勇次)「ば、バカ!! 騒ぐな目立つだろが!!」



(さくら)「黙ってられる訳ないでしょ!! 同じでしかないのよ!? 違いがないのよ!? 頑張りなさいよイヲン!! えぇ!! イヲン!!」



(勇次)「んなことはイヲンが頑張ることじゃねぇ‼」



もう一度言っておこう、病名は「中二病」である。



(鏡子)「ほら二人とも~ 衣服コーナーに行くわよ~」



そんなことを知らない鏡子が、後ろから二人の肩を叩いてきた。



(さくら)「よし!! 元気があれば衣服コーナーにも行ける!!」



さくらは完全なる暴走を始める。

もう完全に「猪○」だ。



(さくら)「行くぞー!!」

‐タッ!! ドカンッ!!‐

(さくら)「ふぎぃ!!」



さくらは掛け声と一緒にスタートダッシュをしたのだが、目の前にいた男性にぶつかり、大胆にコケてしまった。

勇次は慌ててさくらに駆け寄る。



(勇次)「お、おい!! 何やってんだよお前!! すいません、本物にすいません」



さくらにどつかれた男性は、

「ハハ… 大丈夫、大丈夫」と言って、店内の中へ消えていった。

良い人で良かった。

だが、目は気狂いを見る目だったのが気になるが、



(勇次)「オイ、大丈夫かさくら?」



(さくら)「……」



(勇次)「さく…」



(さくら)「行けるかバカヤロー‼」

(勇次)「いい加減しろバカヤロ‼」

‐ガツンッ!!‐

(さくら)「おごッ!!」



勇次は生まれて初めて女の子を殴った。

殴ったと言ってもゲンコツ程度だが、しかし勇次は殴らずにはいられなかった。