(勇次)「ハァ…ハァ… お、おっかねぇ」



危機を脱したことで、勇次は肩の力がスッとほどけたのだが、代わりにさくらがジタバタと暴れだしたのだ。



(さくら)「…!! ちょっと!!いつまで抱き付いてんのよ!!!」



(勇次)「お前なぁ… 助けてもらってお礼のひと言も言えないのか?」



(さくら)「それとこれとは話が違う!! いいから離れてよ気持ち悪い!!」



確かに、このまま抱きついてても仕方がないので、「やれやれ…」とさくらから離れようとするが、



(勇次)「いや……腰が抜けて動けん…」



(さくら)「…じゃあいいわ…そのまま歯ぁ食いしばって固まってなさい…」



(勇次)「え?」



(さくら)「ぬおぉぉぉぉぉ!!」



さくらは振り上げた拳に血管を浮き上がらせる。



(勇次)「ちょっ… さ、さくらさん?」



(さくら)「ふんぬ!!!」

‐バキッィィ!!!‐

(勇次)「ぐへぇ!!」



さくらの右手から繰り出された豪拳は、勇次の顔面に見事当たり、まさにぶっ飛ばされる形でさくらから離れた。



(勇次)「……な、なぜ…?」



勇次の行動は誉められていいと思うのだが、何故殴られなければならないのか、勇次は純粋に理由が聞きたかった。



(さくら)「ア、アンタの顔が私の…む、むむ胸に付けてたからいけないんでしょ!!! この変態!!!!」



(勇次)「胸……だったか? てっきり腹だと思ったが……うお!!」



(さくら)「ど~ゆぅ~事…?」



鬼の形相で睨み、斧持ったさくらがそこにいる。



(勇次)「ま、待て!! 悪い!! 悪かった!!」



‐ポツ…‐



(さくら)「私のコンプレックスに触れたアンタは死に価する… 死ねぇぇぇ!!!」



‐ポツ…‐



(勇次)「うわぁぁぁ!!」



‐ポツ…ポツポツ…‐



(さくら)「ん?」



‐ポツポツポツ…‐



(勇次)「あ?」



‐ポツポツポツ‐



(さくら 勇次)「……雨…?」





‐ザァーーー…‐






とりあえず、家に避難したさくらは廊下の窓開け、その場で外を眺めた。

薄暗くて肌寒く、そして豪快に降る雨、庭にはその雨に濡れないように、切りかけの木にビニールシートを被せている。

この雨の中、薪割りをするのは無理だろうと考えた勇次の判断だ。

そして、その勇次は―



(勇次)「ただいま~…」



ずぶ濡れで家に帰ってきた。