さくらは勇次の両腕を掴み、居間にオムライスを持って行くことを阻止する。
(勇次)「離せえい!! テメぇの悪名を広げるチャンスをォー‼」
(さくら)「誰が離すかー!!」
勇次は両腕に捕まったさくらを振り回すが、それでもさくらは手を離そうとしない。
ぐるぐると回り続ける二人は、兄妹がじゃれてるように見えなくもない、
それを見て鏡子が―
(鏡子)「まぁ~ 二人とも、もう仲が良いのねぇ」
(勇次)「どこが!!!!」
(さくら)「どこが!!!!」
鏡子の言葉を同時に否定した。
夕御飯も食べ終わり時間は夜の10時頃、風呂に入り終えた勇次は、髪をタオルで拭きながら二階にある自分の部屋へと向かう。
先のオムライス事件も大した騒ぎを見せず、むしろ夕食作りの手伝いをしてくれたと、さくらに対する好感度はうなぎ登りだった。
いや違う、
正確には「誰も勇次のオムライスに目もくれなかった」だ。
勇次の食べていたケチャップ炒めは、そこにないものと認識されていたのだ。
これは新手の虐めか?
そんな事をされたら、小さい事を気にしている勇次の方が悪いと言っているようではないか、
勇次は「はぁ…」と深く溜め息を吐くと、階段の途中で障子の隙間から電気の光が漏れていることに気がついた。
そこは死んだ親父の部屋で、普段は明かりがつくことのない部屋だ。
(勇次)「……そうか、これからアイツの部屋になるんだもんな、しかし、普段使って無い部屋に人が居るってのは何か新鮮だな」
「親父の部屋」からは、さくらとお婆ちゃんの話し声と、布団を敷く音が聞こえる、
お婆ちゃんがさくらの使う布団を敷いてるのだろう。
(お婆ちゃん)「もしもの時に、この布団も干しといて良かったよ、さあ!! これで出来上がり!!」
(さくら)「ありがとうございます…」
さくらは小さい声でお婆ちゃんにお礼を言った。
さくらの声と表情を見たお婆ちゃんは、何かに気付いたかのように笑顔のまま溜め息を吐くのだ。
(お婆ちゃん)「不安かい?」
(さくら)「!!」
(お婆ちゃん)「私の前では隠さなくていいよ?」
この時のお婆ちゃんはさくらの核心を突いたと思う、
だってそうだろう。
いきなり別の世界に来て、
いきなり他人の家に泊まる事になって、
どうやって元の世界に帰れるか分からなくて、
もしかしたら帰れないかもしれなくて、
さくらはその不安を隠していたのだ。
