そんな二人の会話をよそに、秋花はニコニコ笑ながら牛に餌を撒いて行く。
だが二人の会話はまだ続く、
(茜)「そんなに男が嫌いなんて… 昔なんかあったの?」
(さくら)「……別に…」
ヘアピンをしている右側の髪をかき分けながら、茜から目を逸らすその様子に、茜は釈然としないものがあったが、
茜はそれよりも、今さくらに起きている出来事に気が付いて、慌ててさくらにそれを伝えた。
(茜)「さくらちゃん‼ 服‼ 服‼」
(さくら)「?」
茜に言われ、さくらが妙に違和感を感じる左腰辺りを見てみると、柵から首を伸ばす牛にモグモグと服を噛じられていた。
(さくら)「ムギャアァァ‼」
慌ててさくらは牛の頬を往復ビンタして、無理やり口からツナギを離すが、その反動でよろけた体は後ろへ下がり、牛舎の壁へ頭をぶつける。
-ゴンッ‼-
(さくら)「……~っ…」
さらに振動で掛けてあったバケツが落ちて頭にもう一発、
-バカンッ‼-
(さくら)「がっ‼」
(茜)「さ、さくらちゃん大丈夫‼?」
慌てて茜が近くに駆け寄るが、さくらは涙目で噛じられた部分を摘まむように伸ばして見ていた。
(さくら)「牛に… 牛タンに食われた…」
(茜)「おかしいわね… 「春子」は人にちょっかい出すような牛じゃないのに…」
噛じられた部分は、春子の唾でベッタリと濡れていた。
(さくら)「…このっクソ牛‼ 貴様の舌を牛タンにして食ってやるぞ‼」
(春子)「モオ~!」
春子は舌を見せびらかすように鳴き声をあげていて、その様子が頭に来たさくらは、壁に掛けてあった鎌を掴んで春子に飛びかかろうとするが、茜はそれを全力で止める。
(さくら)「上等じゃねぇかこのクソ牛‼ 今すぐその牛タン削いでくれるわ‼」
(茜)「さくらちゃん止めて‼ 春子は乳牛だから食えないわよ‼」
