(牧場長)「うちの娘と同じ顔をするな」



(さくら)「こんな婆チャリが出てきたら女の子は普通に引くわよ、てゆーかオッサン娘いたんだ」



(牧場長)「おう、娘が中学に上がったらこの自転車で通学させようと思ってたんだけどな? 笑ながら嫌がられた」



(さくら)「まあでしょうね」



(牧場長)「そう言えやお前、勇次ん家に世話になってんだろ? 勇次の自転車があまってんだろ、それに乗ってくれば良かったんじゃねぇの?」



牧場長の疑問にまたまた嫌悪な顔を見せるさくらは、事の事情を話した。



(さくら)「……アイツの自転車…サドルのネジが固まって動かないのよ、おかげで座るとペダルが漕げない」



そう言ってさくらはサドルのネジを緩め、一番低いところまでサドルを下げた。



(さくら)「背に腹は代えられないか…」



こうしてさくらは、牧場長から自転車を譲り受けたのだった。



(さくら)「けど貰うのは良いけど、娘さんの自転車は大丈夫なの?」



(牧場長)「娘には新しいのを買ってやるさ」



(さくら)「ふーん… まあとりあえずありがたく貰ってくわね、オッサンの娘にもいつかお礼言わなきゃ」



(牧場長)「いつかじゃなくて今日言えやいい」



(さくら)「はぁ?」



首を傾げるさくらをよそに、牧場長はタバコを取り出して火を着けた。

そして一息煙を吐くと、さくらの後ろに目を向けた。



(牧場長)「お帰り秋花(あきか)」



(秋花)「パパただいまー」



さくらが後ろを振り返ると、薄紫色のランドセルを背負った少女が立っていた。

この少女が牧場長の娘で、

名は「飯島 秋花」

肩まで伸ばした髪は軽くウェーブがかかり、少しだけつり上がった大きい瞳の左目には、泣きホクロが見える可愛らしい女の子だ。