真由美の父である幸太郎は早苗に近づき、肩に手をのせた。
早苗はその手に擦り寄る。

二人は真由美が死んでから、責めあい、罵りあい、そして支えあった。

二人にはお互いが必要だった。

行き場のない怒りは憎しみに変わり、悲しみは怒りへと変わるばかり。
そんな悪循環の中にいた二人を救ったのは…

「父さん、母さん。」

あの事件の時、まだ3歳だった真由美の弟。

「真虎…」

真虎(マコ)と呼ばれた青年は真由美とそっくりだった。

「………真虎。
気にせず学校に行ってもいいんだぞ。」

幸太郎は無理に笑いながら真虎に言った。

「そうよ…。
苗字が違うし、あれから引っ越したんだから誰もあなたが真由美の弟だと分からないわ…。
お母さんたちは大丈夫よ?」

真由美の事件があってから幸太郎と早苗は一度、離婚した。
二人でいるのが辛かった訳ではない。
もちろんあの事を忘れたかった訳でもない。

苗字を変えるためだ。

富塚とは別段、変わった苗字ではない。
だが、近所や分かる人にはすぐに分かる。

だから一度、離婚し早苗の旧姓の柳を名乗る事にした。