「やめろよ。せっかく生かしてくれた命なんだろ? 無駄にしたくないんだろ?」
リリアは、小さく頷く。
その上で、彼女の瞳が語る。
それでも姫を見捨てられないのだと。
キーファはイライラと舌打ちして、馬の手綱をリリアに握らせた。
「お前がどう思おうと俺はお前をあいつのところになんか行かせない。絶対だ!」
リリアは目を見開いて彼を見つめる。
キーファは激しく続ける。
「いいか! 俺はお前を死なせたくない! 何があってもだ。俺はお前みたいな奴と会ったのは初めてだ。……こんなに強くて、一人で溜め込んで悩んで……周りを頼れよ」
「………」
「もう決めたんだ。お前と行くって。その手を俺は離したくない。どんな壁があってもお前を連れてく。
だから……」
キーファは、リリアを抱きしめる。
リリアの目に、涙が浮かぶ。
「俺のためだ、俺のワガママだって思ってていい。俺のために……ついてきてくれないか?」
キーファは、リリアを離して彼女の目をまっすぐ見つめた。
涙に濡れた顔で、リリアは小さく、でもしっかりと、頷いた。
唯一幸せになれたあのパーティのときのように、唇を重ねた。
しかし、あの時よりも、強く、激しく、深く。
顔が離れたとき、リリアはもう泣いてはいなかった。
「行こう」
その言葉に頷いて、固く手を握り締める。
そして離すと、馬に跨って二人は城を抜け出した。
これから戦いが起ころうという空は何処までも青く澄んでいた。


