壁の向こうは、薄暗い小部屋だった。
目線の高さくらいのたくさんの引き出しのついた棚がぐるりと部屋の壁にぴったりくっついている。
その棚の上には、たくさんの書類が乱雑に置かれている。
中央には小さな机があるが、それもあまりきれいとはいえない。
机の上の少しだけ片付けられた一角に、小さな匣(はこ)がおいてある。
リリーはそれを手に取った。
その匣は、入れたものの時を止めておくことの出来る魔法の匣。
ずいぶん昔、彼が即位して間もないころにリリーがプレゼントしたものだった。
「懐かしい…」
思わず笑みがこぼれ出る。
彼は見かけによらず不器用で、王の証として与えられる物のひとつの管理が悪く壊してしまいそうなのだとリリーに話し、彼女はよければと言って匣を差し出した。
いくら管理が悪くても、時が止まってしまえば悪化することはない。
そういうと彼は魔法ってずるいと笑っていた。
「まだ持っててくれたのね……とっくに捨てたものかと思ってたのに」
リリーは匣を机の上に戻そうとした。
そのとき、匣の中からタプン、という水音がした。
「何が入っているのかしら?」
気になったが、そのままに匣をおいた。


