自分の部屋に戻ってまず、マリンは家宝であろうものを壊してしまったという罪悪感に襲われ、怖くなってベッドにもぐりこんだ。
しばらくしてベッドから出てくると、どうしようかとせわしなく部屋を歩き始めた。
──でも……そこまでやったんだもの。行動しなきゃ意味ないわ!
マリンは服装を出来るだけ地味なものに取り替えて、必要なものだけもって部屋を出た。
だが、そこで誤算が起きた。
ドアを開けた目の前に、リリアがいたのだ。
リリアはただマリンをじっと見つめて、「どこへ?」と視線だけで問いかけてくる。
「どこへ行こうと私の勝手よ! お願い、退いて!」
リリアは悲しそうに眉尻を下げて、手元のメモにさらさらと書いてマリンに見せた。
(王からマリン様を出すなと仰せつかっております。鏡のことも、全部バレてます。おとなしくしたほうが貴方様のためです)
マリンは愕然とした。
継母が鏡を直したとは露知らず、父のすばやい手回しに舌を巻く。
マリンの小さな抵抗はむなしく終わった。


