遠い昔
ある催しのために城に行った日。


城の表の広場から抜け出した二人の少女。
城の重い樫の木の前で、一人がもう一人の手を引く。


「ホラ、行ってみようよ!」

「待ちなさいよローズ! ……もう、勝手なんだから!」


袖口を引っ張るローズに引きずられるようにしてナナイは文句を言うが、ローズはさらに目を輝かせてナナイの手を握った。


「だって王子様に会えるかもなのよ!? 行くしかないって!」

「後で表にも出てくるんでしょう?」

「そんなの待ってたら王子様に会えないよ!」

「でも、怒られちゃうわ」


お父様怒ったら怖いのよ、とナナイは眉を下げて言った。
しかしローズは逆に不適な笑みを浮かべた。


「そんなの気にしないのッ! 大丈夫だからさ!」

「……いいかな?」


ナナイは赤らんだ頬でローズを見上げた。

本当は自分だって行きたい。
憧れの王子様の顔を少しでも近くで見たい。


そんな彼女にローズは満面の笑みを浮かべて言った。


「もちろん!」


成長しても、そんな非常識なところは何も変わらなかったローズ。

私はいつでもあなたが羨ましかったんだ。

明るく奔放で、貴族なのに何にも縛られないあなたが。


結果的に、いつも欲しいものを手に入れて──


そんなあなたの後をついてくのが、楽しくて羨ましくて大好きで──いつか妬ましくなった。



私もあなたも、結局変わらなかったわね──