だが、人が出てくる気配はない。
鼻息も荒く立ち上がろうとした時だった。
ふわっと甘い香りが漂い、出所を探してふらふらと歩き出した。
実は、このあたりの記憶ははっきりしない。
呼ばれた気がして我に帰ると、目の前には黒装束の人間が自分をがっちり掴んでいた。
電流のように恐怖が背筋を駆ける。
頭は真っ白、自分がどうなっているかもわからずに暴れた。
やっと見えた彼方に自分を呼ぶ人間がぼんやりと見えた。
それが誰かなんて考えている暇はなかった。
パニックになった頭でその人物に手を伸ばした瞬間――
――すべては闇に堕ちた。


