――龍樹サイド――
「出かける」
顔も見ずに千絵に告げ、コートを着込んで外へ出た。
こっちに来てから一度も……外へ出ていない。
寒いからというせいもあるが、まあ単に面倒だっただけだけど。
だけど……今日は別だ。
今日は立夏の……命日だ。
母親が死ぬまでこっちに住んでいたため、ガキの頃よく立夏と行っていた場所……いわゆる思い出の場所というものがこちらにある。
墓へは行かない代わりに、毎年そこへ行っていた。
「…さみ」
まだ十一月だっつーのに…なんだよ。
冬本番がきたらどーすんだ。
今歩いている道。
この道も……よく二人で走っていた。
たぶん俺が小学校に上がって少しした頃までは、いつも立夏の後ろにくっついていた。
『龍樹! そんなの持って走ったら転んじゃうよー?』
俺を振り返って笑いながら言った立夏。
その直後に…言った本人が転んだんだったっけか。
毎年この日になると。
あの場所へ向かうたびに。
立夏を思い出すたびに。
俺は…心穏やかではいられなかった。

