――悠由サイド――
「先輩のばかぁ…」
引っ張られたほっぺたを撫でながら、教室にとぼとぼ向かう。
痛いし…遅れるかと思ったし…。
「もう」
「おんや~? 今日はえらく遅かったのねえ♪」
「杏子」
席に着くと、杏子がニマニマしながらやってきた。
「顔がなんかこう……ものすごいよ」
「うっさいわ!」
あはは…。
迫ってくる杏子をかわすために、胸の前でお手上げのポーズをしてみせた。
根掘り葉掘り聞かれるかと思ったけど、運よくすぐにチャイムが鳴り…渋々杏子は自分の席に戻った。
「……」
なんか…いいよねぇ。
こういういつも通りって。
昨日まで同じ時間でも泣いてたなんて思えない。
やっぱり杏子の言うとおりだったな。
頬杖をつき、窓の外を眺め……緩やかに流れる時を感じた。

