「わけわかんないこと言ってないの! さ、早く行こ」

「はーい」


腕を引っ張られ、足がもつれそうになりながらもなんとか走った。



早めに来過ぎたせいか、教室にも廊下にもほとんど生徒の姿はない。


「杏子いつもこんなに早いの?」


「うん。…悠由こそ、今日妙に早かったのね」


「那智兄から逃げてきたの」


「ああ…あのシスコン兄さんね」


杏子にかかると、那智兄までもがシスコン扱い。

あたしなんて、「ブラコンだしシスコンだしアンタってほんと恋愛向いてなさそう」…だし…。


失礼なっ。

あたしだって…好きな人の一人や二人…。




……お、思い浮かばない…。


「…?」


不審な目で見てくる杏子の隣で、しくしく落ち込んだ。

あたし……杏子に見透かされてるっ。



早く来たと思ったのに、そうこうしているうちにすぐ始業時間になった。

時が経つのはほんとに早い…。


「Xをー…ここに代入して…」


しかもいきなり、大嫌いな数学。

も……やっ!