針を刺したような痛みが、体の内部を駆け抜ける。
それをごまかすように、もどかしさを打ち消すように、握った左手で壁を叩きつけた。
「なんなんだよあいつ……」
紛らわしい態度とりやがって。
ついさっきまで…甘い声で鳴いてたくせに…。
俯いたとき、悠由の落としたパンが目に入った。
「……」
それを拾い上げ、食べかけの甘そうな何かよく分からないものを口にしてみる。
「…こんなもんなにがよくてわざわざ食うんだよ…」
呟いて、大きくため息を吐いた。
『あたしじゃなくたって』…か。
……馬鹿が。
俺は…お前じゃなきゃだめなんだよ。
お前じゃ、なきゃ……。
悠由の、『あたしじゃなくたって』『雲の上の存在』という二つの言葉がグルグルと頭の中を回り続ける。
「あー…くそ」
ガシガシッと頭を掻き、教室に鞄を取りに戻った。
「あれ。どうしたの篠原。……彼女に振られでもした?」
そこでまた会った中井に半ば図星をつかれ、さらに苛立ったまま家路についた。

