「片仮名でトシだよ。」
「……トシ?」
不覚にも、体中の血が顔に駈け登るのが解った。先程桃はトシが名前を呼んだことで頬を紅潮させていたが、こちらも同じだった。
「先生、顔真っ赤だよ。」
「うるせえよ……。」
照れ隠しに、悪い口が更に悪くなる。
それだというのに、桃は嬉しそうに微笑んでいる。これではどちらが子どもか大人か、分かったものではない。
行きは長く思えた一時間という道のりも、今度は酷く短く感じられた。
桃は窓の外の見慣れた景色を眺めている。
「よし、着いたぞ。人が来たらちゃんと隠れるんだぞ。」
「はい。」
「あ、それからお前、今日は俺の家で課題の続きだからな。」
「えっ。」
駐車場に向かって車を走らせるトシは相変わらず淡々と言った。
そこは腐っても教師である。
桃は酷く嫌そうに渋い顔をしていた。そうしている間に、車は駐車される。
「早く提出しろよ。卒業できないぜ。」
トシは桃にそう言い放って、いつもの理科準備室へ向かった。
end

