「課題が終わったら、先生と一緒に居られなくなると思って……。先生の車に乗れなくなると思って。それなら課題なんて終わらなくていいやって、考えるようになった……。」
「……。」
何ということだ。
中野の口角が、重力に逆らう。
まるで初恋が叶ったような、高揚感だ。
瀬沼桃が眉間に皺を寄せて、眉毛を八の字にさせて切羽詰まったように、泣き出しそうになったので、中野は慌てた。
再び瀬沼桃の髪を撫でつける。
ゆっくりと、緊張して固くなった小さな肩に腕を回して、ぎゅうと抱き寄せた。
瀬沼桃は息が、止まる思いだった。
「先生……、」
「それ、本気か?」
「……、ずっと、好きでした。他の授業は面倒で受けなかったけど、先生の授業はちゃんと、先生の授業だから、でも課題は溜まっていくばかりで……。」
十も年の離れた少女を愛でるとは、誰も予期しなかった。想いが通じ合うことも考えられなかったし、心底惚れるだなんて微塵にも思わなかった。
中野は暫くの間、瀬沼桃の頭を撫でては抱く腕の力を込めた。

