「先生、」
「……転んだのか……。」
「ウン。」
直前まではこちらを見ていたのに、ウン、と頷いたあとで瀬沼桃は首を垂れたまま動かなくなった。これは、きっと彼女の癖なのだろう。
「とりあえず送っていくから。立てるか?」
「……。」
黙り込む瀬沼桃に、三戸も複雑そうな表情をしている。中野は瀬沼桃の両手首を掴み、グンと引っ張った。
そのあまりの軽さに、中野の方が尻餅をつきそうになった。
立ち上がった瀬沼桃は、ちらりと三戸を見て「ありがとうございました。」と頭を下げた。
「うん、気を付けてね。」
「……はい。」
「それじゃあ、本当にすみません。ありがとうございました。」
中野も倣って頭を下げると、三戸は緊張した面持ちで首を横に振った。
それから中野は瀬沼桃の腕を引きながら玄関に向かい、外へ出た。
三戸と別れてから、瀬沼桃を助手席に乗せた。助手席に座った瀬沼桃は、膝の上にガサリと袋を乗せた。
どうやらこれが、居残りを休む程の用事の実態だったようだ。

